【法人向け】謝礼金は源泉徴収の対象?謝礼金を払う企業が知るべき源泉徴収の基本

講師への講演料やアンケート協力者への謝礼など、法人が業務の一環で個人に謝礼金を支払うケースは珍しくありません。しかし、金額や性質によっては「源泉徴収」が必要になることをご存知でしょうか?源泉徴収の有無を誤ると、法人側に加算税や延滞税といったリスクが生じる可能性もあります。この記事では、法人担当者が謝礼金の支払いに際して知っておくべき税務処理の基本を、具体例や実務フローを交えて丁寧に解説します。
結論:謝礼金は原則として源泉徴収が必要です

法人が個人に謝礼金を支払う場合、名目や金額にかかわらず、実態が“労務の対価”であれば原則として源泉徴収が必要です。
一部で「5万円以下なら源泉徴収不要」と誤解されがちですが、これは新聞・雑誌への投稿や懸賞など、ごく限られたケースにしか適用されません。講演料・原稿料・調査謝金など業務に基づく謝礼は、5万円未満でも源泉徴収が必要です。
要点は次の3つです。
- 実態が労務の対価なら源泉徴収が必要
- 「5万円以下で不要」は投稿・懸賞限定の例外
- 正しい税額計算・納付・帳簿管理が重要
それでは、法人が謝礼を支払う場面で必要な知識を体系的に見ていきましょう。
謝礼とは?法人が支払う際の基本知識

報酬・謝礼・講演料の違いとは?
「謝礼」という言葉は一般的には“感謝の気持ち”を表すもので、講演や原稿執筆などの労務に対する対価として広く使われます。ただし、税務上は“労務の対価”であるか否かが重要で、呼び方が「謝礼」でも「講演料」「原稿料」でも実質が報酬であれば、源泉徴収の対象になります。
このような報酬には以下のような種類があります。
- 講演料(セミナー・研修など)
- 原稿料・寄稿料
- 調査協力への謝金
- 出席料・出演料・取材協力費
- 講師への交通費込み一括支給
名目ではなく、実態を見て判断する必要がある点に注意しましょう。
法人から個人への謝礼は「報酬扱い」になる?
法人がフリーランスや個人事業主、一般個人に対して謝礼金を支払う場合、その内容が一時的でも「業務委託」に該当すれば、報酬と見なされます。この場合は「報酬・料金」として源泉徴収の対象です。たとえば、外部講師を招いて研修を依頼した場合、その講師への謝礼は“報酬”と扱われます。
ただし、以下のようなケースでは源泉徴収が不要になる可能性があります。
- 社外の顧客へ贈る季節の挨拶品(交際費)
- 社内向け表彰としての記念品や図書カード(福利厚生費)
- 公募型アイデア投稿での謝礼(一定金額以下)
税務上の判断は微妙なケースも多いため、社内での取扱ルールを文書化しておくことが望ましいです。
源泉徴収が必要になる条件と判断基準
国税庁のタックスアンサーでは、源泉徴収が必要な報酬・料金として「講演、原稿、対談、座談会、取材、指導、翻訳、監修等」が明示されています。
以下のような要素がそろうと、源泉徴収の対象と判断される可能性が高まります。
- 労務の提供があったこと(作業や協力)
- 契約・依頼に基づいたものであること
- 謝礼の額が事前に合意されていること
つまり、「自発的な善意の寄稿」ではなく、「法人からの依頼で作業・協力した結果としての謝金」であれば、源泉徴収の対象となります。
一方、交通費や宿泊費のみを実費支給するような場合は、労務の対価とみなされない限り、源泉徴収不要とされます。これらの判断には“実態把握”が不可欠です。
源泉徴収が必要なケースと税率

個人・日本国内居住者に支払う場合の税率(10.21%)
日本国内に住所がある個人に謝礼を支払う場合、原則として10.21%の税率で源泉徴収を行う必要があります。これは、所得税10%に復興特別所得税0.21%を加えた合計です。
非居住者・海外在住者の場合の税率(20.42%)
謝礼の支払先が海外在住の個人(非居住者)である場合、源泉徴収税率は20.42%に上がります。国際税務上のルールに基づき、二重課税防止のための租税条約が適用されるケースもあるため、事前確認が重要です。
100万円超の場合の計算方法(加算税)
1回あたりの謝礼金が100万円を超える場合、超過部分には20.42%が適用され、基本部分に102,100円が加算される計算方式となります。税額計算ミスを防ぐためにも、国税庁の源泉徴収税額表の利用が推奨されます。
交通費・宿泊費の扱いと非課税の境界線
講師や協力者の交通費・宿泊費を別途実費精算する場合、源泉徴収の対象外とされます。ただし、これらが「込み」で一括支給される場合には、全額が課税対象になるため注意が必要です。
源泉徴収の実務対応フロー

税額の計算例と控除対象の有無
例えば、講師に10万円の謝礼を支払う場合、10.21%で源泉徴収すると10,210円となり、実際の支払額は89,790円となります。あらかじめ税引き後で支払う契約になっている場合、差し引きの計算に注意が必要です。
いつまでに納付?納付書の書き方と提出期限
源泉徴収した所得税は、翌月10日までに所轄税務署へ納付しなければなりません。納付は「所得税納付書(納付区分02)」を使用して行います。納期限を過ぎると延滞税が課されるため、期日管理が重要です。納付はe-Taxの利用も可能で、クラウド会計ソフトとの連携もスムーズに行えます。
支払調書の作成と法定調書合計表の提出
源泉徴収を行った場合、翌年1月末までに「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」と「法定調書合計表」を税務署に提出する義務があります。支払先が個人であれば、本人にも調書の控えを交付するのが望ましく、トラブル回避につながります。提出時はe-Taxによる電子提出も可能で、年間で複数人に支払う場合はCSVフォーマットでの出力と提出に対応した会計システムの導入がおすすめです。
謝礼に関する帳簿・仕訳・勘定科目

謝礼金は「報酬・謝金」?「交際費」?
謝礼金は「謝金」「支払報酬」などの科目で処理するのが一般的です。ただし、感謝目的で提供するものであれば「交際費」として処理されることもあります。業務との関連性や継続性がポイントになります。
交際費として計上できれば損金算入も可能になりますが、税務調査ではその線引きが厳密に判断されるため、事前の社内ルール明確化と領収書・記録の保存が必須です。
消費税はかかる?税込と税抜の仕訳例
講演料や原稿料には消費税が課税されますが、相手が課税事業者でない場合、インボイス対応の観点からも注意が必要です。税込で契約した場合は、税込金額を源泉税計算のベースとするため、計算根拠を明確に保管しておきましょう。
【例:税込110,000円の講演料】
- 消費税抜:100,000円
- 源泉税:10,210円
- 支払額:99,790円
会計ソフトの仕訳では以下のように処理します。
- 借方:支払報酬 100,000円、仮払消費税 10,000円
- 貸方:現金預金 99,790円、預り金 10,210円
インボイス制度開始後は、講師やライターなどへの謝礼支払い時に、相手が適格請求書発行事業者かどうかも確認が必要です。インボイスがないと仕入税額控除ができないため、法人の消費税負担に影響します。相手が免税事業者であれば、税込での支払いを原則としつつ、社内の精算フローにも影響が出ないようルールを整備しておくと安心です。
交通費を現金手渡ししたときの処理は?
交通費を実費精算で現金支給する場合、「旅費交通費」勘定で処理します。一方、交通費込みの謝礼として一括支給した場合は、その全額が源泉徴収対象となるため、「支払報酬」として記帳が必要です。
実費支給とする場合は、領収書や交通系ICの履歴コピーなど、証憑の保存が求められます。証憑がないまま支払った場合、後に課税対象とされるリスクがあるため、注意が必要です。特にインボイス制度下では、実費精算にも適格請求書の有無が影響を及ぼす場合があります。
法人がよく直面する謝礼金のQ&A

「5万円の謝礼でも源泉徴収は必要?」
金額に関係なく、業務性がある謝礼であれば源泉徴収が必要です。5万円未満でも、支払調書の提出義務があるケースもあります。ただし、懸賞や公募などにより支払われる「一時所得」に分類される場合は、源泉徴収の対象外となる例外もあります。
「講演料と交通費を一緒に渡したら?」
交通費込みで一括支給した場合、名目が分かれていなくても全額が課税対象になります。非課税にするためには、交通費相当額を明示し、実費として証憑付きで別途精算する必要があります。契約書・依頼文書・メールで金額の内訳を明記しておくと税務調査時にも安心です。
「謝礼を未納税のまま支払ったら?」
源泉徴収を行わずに支払ってしまった場合、法人側に加算税(不納付加算税)や延滞税の負担が発生する可能性があります。また、税務調査で発覚した場合には追徴課税もあり得ます。過去分については、修正申告および源泉所得税の納付を早めに行うことでリスクを軽減できます。
まとめ

法人が個人に謝礼金を支払う際には、たとえ少額であっても源泉徴収の対象かどうかを正確に判断する必要があります。講演料や原稿料、調査謝金など、実質が「労務の対価」である場合は、名目に関わらず税務処理が必要です。
適切な源泉徴収を行い、支払調書や納付書の管理を徹底することで、税務リスクを最小限に抑えることができます。また、インボイス制度や電子帳簿保存法など、近年の法改正にも対応した社内体制の整備が求められます。
最後に、以下のようなチェックポイントを用意し、実務に役立ててください。
- 謝礼は「報酬」か「交際費」かを明確に判断する
- 税抜/税込の契約条件と源泉徴収対象金額の把握
- 実費支給分の証憑(領収書・交通費明細など)を保管
- 支払調書作成と納付期限の管理体制を整備
- インボイス・電子帳簿保存に関する書類保存を徹底
この記事を社内マニュアルに取り入れ、経理・総務部門全体で共通認識を持つことが、実務トラブルを防ぐ第一歩です。